遺言の失敗事例

法律事務所に持ち込まれる遺言トラブルには遺言の失敗事例が含まれており、これらの失敗事例を分析することは、遺言を作成する際に役立ちます。ここでは、弊所で取り扱った事例の一部をご紹介します。

1、小規模宅地等の特例の適用対象が複数あり、相続人2名に分配されていた事例

(1)相続関係

  • 被相続人:A
  • 相続人:長女、長男

(2)遺産

  • 自宅(土地建物)※長女が同居中
  • アパート1棟(土地含む)
  • その他預貯金

(3)遺言の内容

自宅を長女、アパートを長男、預貯金は長女・長男にそれぞれ2分の1を相続させるというものでした。

(4)問題点と遺言作成時の対策

本件の遺言の内容は、2つある不動産を長女と長男にそれぞれ相続させるという極めて素朴な内容で特におかしなところはありません。上記の相続関係・遺産の内容であれば同じ内容の遺言を作成するかたも多いと思います。
一つだけ問題だったのは、相続税申告で最もメジャーな特例である小規模宅地等の特例の適用対象が複数あり、それらの不動産を複数の相続人が相続する場合、どの不動産に小規模宅地等の特例を適用するかを合意する必要があるということです。特に揉めていない相続であれば、税理士が相続税の減額効果が最も高い物件を選択してくれるので特に問題はないのですが、揉めている相続ではそうはいきません。
本件でも自宅に小規模宅地の特例を適用するのが最も相続税の減額効果が高かったのですが、長男よりも長女が享受するメリット(相続税の減額幅)が多いため、長男側が自宅への適用に難色をし、相続税申告期限の前日まで交渉を続けることとなりました。最終的には一定の条件を設定して、自宅に小規模宅地等の特例を適用することで合意しましたが、一歩間違えば特例の適用ができない事案でした。
複数の不動産を所有している方が遺言を作成する場合は、小規模宅地等の特例の適用で紛糾するという事態も織り込んだ上で、遺言を作成することをお勧めします。

《参考》国税庁WEBサイト
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm

2、法人に大量の不動産を遺贈した事例

(1)相続関係

  • 被相続人:A
  • 相続人:長女、二女、三女、長男、二男

(2)遺産の内容

  • 自宅(土地建物)
  • 土地11筆(B社の事業用地として利用している土地)
  • A社株式

(3)遺言の内容

  • 土地11筆をB社に遺贈する。
  • 自宅(土地建物)、B社株式その他一切の財産を長男に相続させる。

(4)問題点と遺言作成時の対策

被相続人は自分が起業したB社を大切にしていたことから、相続に際して、B社が使用している土地は、相続人ではなく、B社に所有させたいと考えたようです。この考え自体は自然に思いつきそうですが、税務上は、相続人に土地11筆に関する譲渡所得税、B社に法人税、相続人全員に贈与税(相続人は全員がB社の株式を保有していた)がかかるという最悪のパターンでした。
このような場合、税理士から税務上、致命的なダメージを受ける旨の説明がされ、B社が遺贈を放棄するというパターンになりますが、本件ではそう簡単ではありませんでした。長男はB社株式を相続していることから、B社株式の過半数を有しており、土地11筆についても事実上自分が取得したのと同等に考えていました。そのため、遺贈を放棄し、土地11筆が未分割の遺産になった場合、一旦取得した土地11筆を失うことになると考えていたようです。
本件では最終的に税務上のデメリットが大きすぎたため、長男は遺贈を放棄しましたが、その後、放棄された土地11筆の帰属について紛争が深刻化し、最終的な解決まで4年以上の時間を費やすことになりました。
遺言を作成する際には、適切な遺産の分配と併せて、遺言による分配の結果どのような課税関係になるかも事前に試算することが重要です。

3、相続人を信頼しきれなかった事例(自宅敷地と接道を分離して相続)

(1)相続関係

  • 被相続人:A
  • 相続人:妻、長男、長女

(2)遺産の内容

  • 自宅(B土地・C土地・建物)
  • 預貯金

(3)遺言の内容

  • B土地を長女、C土地及び建物を長男に相続させる。
  • 預貯金は妻、長男、長女に各3分の1の割合で相続させる。

(4)問題点と遺言作成時の対策

本件の被相続人Aは、代々引き継いできた自宅を大切にしており、自分がなくなったあとも長男に引き継いでもらいたいとの考えでした。そこで、C土地と建物を長男に相続させることにしたのはいいのですが、問題はB土地でした。
B土地はC土地と一体で建物の敷地になっており、また、C土地及び建物から公道にでるにはB土地を通る必要があります。そのため、C土地及び建物だけでは、事実上、売却することはできません。本件遺言は土地C及び建物を処分し難くすることで、結果的に自宅が引き継がれていくというアプローチをとったものです。
本件遺言は長男を信用していないというAの心情が現れており、結果的にその目的を達することは出来なかったようです。遺言者亡きあとは、財産関係の処理は相続人(受遺者)に委ねるしかありません。遺言を作成して財産を委ねる場合は信頼をベースにすることが必要だと思われます。

4、同族株が名義株で相続人5名に分属していたが、遺言で処理が示されていなかった事例

(1)相続関係

  • 被相続人:A
  • 相続人:長男、長女、二女

(2)遺産の内容

  • 預貯金
  • B社株式1000株
  • B社名義株900株(長男、長女、二女各300株)

(3)遺言の内容

  • B社株式1000株を長男に相続させる。
  • 預貯金は相続人3名に各3分の1の割合で相続させる。
  • 上記以外の一切の財産は長男に相続させる。
  • B社名義株900万円には言及なし。

(4)問題点と遺言作成時の対策

本件では、長男と長女・二女間で、B社の株式900株がそもそも名義株であるか否かが争点になりました。名義株であれば、遺言書が「一切の財産」を長男に相続させると定めていることから、900株全部を長男が取得できる可能性があるからです。
また、仮に900株が名義株であり遺産に含まれるとなった場合でも、このような纏まった財産が「一切の財産」という包括的な条項により長男が取得できるのかという点も争点になりました。
そもそも、B社の900株を相続人らに取得させたのは、Aでしたので、遺言を作成するにあたり、この900株が名義株にあたるか否かを明確にして、事前に手当をしておくべきでした。この点を放置したまま、遺言を作成したことが今回の紛争の原因です。
本件は遺言作成にあたり、財産関係を精査することの重要性を示唆する事例と言えます。

5、遺留分を侵害している遺言であるにもかかわらず、遺留分の支払原資に全く配慮されていなかった事例

(1)相続関係

  • 被相続人:A
  • 相続人:長男、長女

(2)遺産の内容

  • 実家(土地建物)
  • 預貯金

(3)遺言の内容

  • 全財産を長男に相続させるとの内容でした。

(4)問題点と遺言作成時の対策

本件遺言で長男に相続させるとされた実家(土地建物)の敷地が200坪以上あり、坪単価も高額なエリアのため、不動産からの収益はないにもかかわらず、評価額が高い状態でした。また、預貯金は不動産の評価額に比べると少額であり、長女からの遺留分侵害額請求を賄うには全く不十分な額でした。
遺留分侵害額請求は金銭で遺留分を支払うことになりますので、改正前の遺留分減殺請求のように遺産の一部を譲渡して解決するという方法が採り難くなっています。そのため、遺留分を請求された場合に備えて金策をする重要性がより高まっていると言えます。
本件では、遺言作成時点では遺留分を侵害する内容であることがわかっているのですから、月並みですが生命保険に加入して長男を受取人とする、実家土地の一部を分筆して将来の利用や担保提供に備えるなどの対策を講じておくべきでした。遺留分を侵害する遺言を作成する場合は、資産の具体的内容を踏まえて遺留分を支払う原資を確保する対策を講じておくことが求められます。

6、一部の不動産の処分のみを定めた遺言により遺産分割が必要になった事例(ミヤタ・宮本)

(1)相続関係

  • 被相続人:A
  • 相続人:長男、二男

(2)遺産の内容

  • 土地、マンション
  • 預貯金

(3)遺言の内容

  • 遺言ではマンションを長男に相続させると定められていましたが、その他の財産については何も規定されていませんでした。

(4)問題点と遺言作成時の対策

通常、遺言公正証書では、遺言作成時に判明している財産は個別に相続方法を決め、「その余一切の財産を●●に相続させる」との条項を入れることで、遺言による処分対象から外れる財産がないように配慮されています。
本件遺言は経緯は不明ですが、マンションの相続方法だけが遺言に定められており、その他財産については何も取り決めがありません。その結果、遺言に定めがない財産について遺産分割を行い、遺産の大部分を占めるマンションを長男が相続していることから、長男に対して遺留分侵害額請求をするという、二つの手続をとることになってしまいました。
遺言を作成する場合、全ての財産の処分方法までは決めかねることから、本件の様に特定の財産の相続方法のみを規定することもあり得るところですが、その結果、相続人の手続負担が2倍になる可能性があるという点に注意が必要です。

7、腹違いの兄弟で遺産整理が難航した事案

(1)相続関係

  • 被相続人:A
  • 相続人:前妻の子、後妻の子

(2)遺産の内容

  • 預貯金
  • 有価証券

(3)遺言の有無

  • 遺言なし

(4)問題点と遺言作成時の対策

本件は遺産に不動産がないため、一般的には預貯金と有価証券を換価し、適宜葬儀費用の清算を行って終了する案件といえます。
しかし、本件の相続人らは、腹違いの兄弟であり、今回の相続が発生するまで一度もあったことがないという関係のため、遺産分割協議をする前提となる基本的な信頼関係が欠けている状態でした。
そのため、相続手続に必要な印鑑証明の交付、葬儀費用の清算内容など些細な点で都度衝突するような状況でした。腹違いの兄弟で面識なしという状況からすれば、遺産分割協議が上手くいかないことは予想できることですから、遺言により相続の内容や葬儀費用の分担を定めておくべきでした。
作成した遺言の内容ではなく、遺言を作成しなかったこと自体が失敗という事例になります。

8、兄弟相続が交流のない代襲相続人ばかりになり、収集がつかなくなった事例(鎌田さん)

(1)相続関係

  • 被相続人:A
  • 相続人:弟、甥姪ら合計7名

(2)遺産の内容

  • アパート2棟
  • 預貯金

(3)遺言の有無

  • 遺言なし

(4)問題点と遺言作成時の対策

本件の最大の問題点は遺言がないということに尽きます。
本件の相続人らは、東北、関東、北陸に散在し、不動産は関西にある上に管理者がいないという状態でした。そのため、相続人らは遺産の詳細を知らず、手続を主導する者がいないまま、徒に意見がぶつかり合う状態でした。
その上、アパートの住人との関係、建物の修繕の問題などが次々に出てきました。
結局、遺産分割調停を3年に渡って行い、何とか解決に漕ぎつけましたが、遺言があれば遺留分の問題もないことから、処理が非常に容易な事案でした。兄弟相続で代襲相続の事案は人間関係も希薄になり、相続人の数も多くなる傾向があるため、遺言がないと地獄をみることになります。他方で、遺言があればこれほど処理が楽になる相続もありません。
兄弟相続=遺言との意識を強くもっていただくことが重要です。

9、予備的遺言がなかったため一部未分割になってしまった事例(矢田部さん)

(1)相続関係

  • 被相続人:A
  • 相続人:代襲相続人(弟の子)、姉、妹の子

(2)遺産の内容

  • 土地B、土地C、アパートD
  • 預貯金
  • 有価証券

(3)遺言の内容

  • 土地Bを妹に相続させる。
  • 土地Bを除く、全財産を代襲相続人(弟の子)に相続させる。
  • Aの相続開始前に妹が亡くなった場合に備えた遺言条項(予備的遺言)はない。

(4)問題点と遺言作成時の対策

本件は兄弟姉妹相続であり遺留分がないことから、遺言で相続方法を定めれば、遺産分割が確定する事案です。
しかし、本件では、土地Bを相続させるとしていた妹がAより先に亡くなってしまったとの事情がありました。このような事例について、最高裁は、Aが妹に相続させようとした財産を、妹がAよりも先になくなった場合には妹の相続人に取得させる意思だったことを裏付ける特段の事情がある場合を除き、妹に土地Bを相続させるとの部分は無効と判断しています。この特段の事情の立証はなかなかハードルが高いため、イ遺言が無効となった部分については、未分割財産として遺産分割協議をすることになります。
本件のような兄弟姉妹の相続で遺言を作成する目的は、遺産分割協議の負担を軽減して円滑に相続が完了するように配慮する点にあることが通常ですので、遺言が一部無効になり遺産分割協議を行わざるを得ない状態は、遺言作成の目的に反する結果となっています。遺言で兄弟に遺産を相続させる場合は、余程例外的な事情がない限り、その子を受遺者として予備的遺言を規定することを徹底すべきでしょう。

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